• 単行本(ソフトカバー): 223ページ
  • 出版社: ビジネス社 (2017/5/24)
  • 言語: 日本語
  • ISBN-10: 4828419551
  • ISBN-13: 978-4828419558
  • 発売日: 2017/5/24

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【チャイナウォッチャー富坂 聰氏による鋭い分析】

 

この本の何が優れているのか?本の帯に「ご都合主義の中国論がこの国をますますダメにする!」と書いてある通り、実際の中国を今までに無い観点で冷静に分析している本だからです。恐らく、私を含めた多くの日本人にとって、GDP世界第二位の座を中国に奪われた衝撃は確かにあるのですが、だからと言って、希望的観測だけでは物事は理解出来ませんし、前に進むことも出来ません。日本から見ればライバル国家である中国が、崩壊しないのかな?してくれないかな?出来れば日本がもう一度GDP第二位に返り咲けないかな??!!という、根拠無き希望と楽観的な見方だけでは、知ることが出来ない中国の今を、ベテランのチャイナウォッチャーである富坂聰氏が解説してくれています。

 

【うっつけを演じていた習近平:戦国武将を彷彿とさせる天下取りのための周到な根回し】

 

本の内容を一部引用します。

私にはひとつの反省がある。それは、習近平がこれほど強烈な政策実行力を発揮するリーダーだと予測できなかったことだ。(中略)だが、いまにして思えば、習近平は“うつけ”を演じていたのだ。そしてその裏で党内の根回しを行い、自らの政策を実行する際に、最短で最大限の効果をもたらす準備を進めていたのである。自分がすっかり騙されたから言うわけではないが、驚くべき、政治センスと嗅覚を習近平は持っていると言わざるを得ない。

出典:同書P166, P170

つまり、一見派手やかでもなく、凡庸に見えた習近平氏(富坂氏の表現では「昼行灯(ひるあんんどん)」)は、実は天下取りのための周到な根回しを行って、次の指導者になる準備を重ねていたということに、チャイナウォッチャーとしても有名な富坂氏が驚いたということが、書いてあります。あくまでも私の感想ですが、このやり方は、徳川家康に少し似ているような気がします。信長、秀吉と比べると派手やかさがなく、徳川家康が一番人気がない武将なのかもしれませんが、不遇の時代には、信長、秀吉にはとにかく低姿勢で臨んで、苦難を耐え忍びながらも、自分が実力を発揮出来る機会をじっくりと伺って、周到な根回しの末に関ヶ原を勝ち抜き、難しい大名の取り潰しや論功行賞をうまく行って幕藩体制の基礎を築いていったやり方(家康も狸爺と呼ばれた)を彷彿とさせます。

 

【うっつけを演じていた習近平:中国版ポピュリズム】

 

本の内容を私なりに要約してみます。

中国の場合、経済発展をさせようとすると、官僚主義的な腐敗が生まれてきます。また、世界中どこでもそうですが、経済成長に伴い国民の格差問題が深刻になります。放置すると、民衆の間に不満が生まれてきます。これらを解決しようとして腐敗撲滅に取組もうとすると、1経済成長が削がれる、2腐敗を摘発される側からの反撃・闘争、の発生が予想されます。1,2のデメリットより、経済成長のメリットの方が大きいと考えるので、改革開放政策以来、この問題に手を付ける中国指導部はありませんでした。所が、習近平氏は、総書記に就任早々、その腐敗撲滅を実際に、かなり徹底的に(トラもハエも叩く=元政治局常務委員クラスの大物も地方公務員も摘発し逮捕することを)行いました。そうすると、今までは、「どうせ幹部は逮捕されないんでしょ?腐敗撲滅運動なんて一時的なものでしょ?」という程度だった民衆の思いが「へ~!今の習近平指導部も中々よくやるじゃない。溜飲が下がる思いがした!」となります。民衆の心を捉える中国版ポピュリズムとも言うべきものと言えるでしょう。

勿論、それを実現するためには、順番があって、まずは人事を握り(例:王滬寧や栗戦書)、組織(例:今まで本領発揮されていなかった中央弁公庁、改革小組の設立)を活用して、規律検査(強力な監査と検査を合わせたもので捜査に近い手法)という刀で身動きが取れないようにします。そうすると、(規律検査を受ける側はもうガタガタで反撃出来る立場にありませんから)党の主導する改革に従わざるを得ない、という図式(改革が進むということ)になります。しかも、罰せられる人間は、特権を乱用(例:賄賂で部下を昇進させた将軍=大金を持っている人しか優遇しないような人は当然大多数から恨まれる。)している人達なので、基本的に周りからの反発はおきず、拍手喝采となります。これらを富坂氏は、①人事の妙、②組織の妙、③手法の妙、④分断の妙、とそれぞれ呼んでいます。

 

【結論:反腐敗運動が意外と民衆の支持を得ている=中国(今の体制)は簡単には崩壊しない】

 

つまり、中国の長い歴史において、王朝が発展して全盛期を迎えると同時に官僚の腐敗が進み、遂には民衆反乱が起きるという歴史があって、そのような事態になってしまっては、現代の中国共産党としてもたまったものではない訳で、さりとて、腐敗の問題も放置出来ないし、という難しい問題に一気に手を付けることで、(水戸黄門的な立位置を作って)民衆の人気を博してしまったのが今の習近平体制だということです。つまり、民衆の間に不満はあることはあるし(注)、中国経済(特に旧来型産業である鉄鋼や石炭等)に問題はあるけれど、そりゃ当然現在の指導部も分かっている話で、ある程度はうまく手を打ててはいるので、崩壊する程のものではなかろう、というのが富坂氏の分析です。何れにせよ、今後、米国を抜き世界一の経済大国になる(インドも後から追ってくる)であろう中国が、今後どのような進化を遂げ、またどのような政治指導者が出てくるか、目が離せない所です。現代中国に関する基礎的な用語や知識を学ぶ上でも、この「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」は良書であると思います。(注)民衆は体制の変革よりも生活のことを第一に考えている。だから湿ったマッチとも呼ばれる。この中国人の気質を孫文はかって「」と呼んだ。

 

以下、『中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由』目次

はじめに
「中国崩壊論」という幻想

第1章
新たな「大国関係」から浮かび上がる
中国が得たもの、そして失ったもの
★「中国は米国の『一帯一路』参加を歓迎する」
★~米中の巧みな駆け引きと日本の戸惑い~
報道に見え隠れする“中国の失敗”という願望
「ゴルフ」よりも大切な日本の国際社会での立ち位置
間違いだらけの“トランプ砲”という安心感
「相互尊重を基礎に意見の相違を……」の真意
異例の譲歩ともいえる米朝直接対話への言及
中国にとっての踏み絵となったシリアへの態度
「一帯一路」と「投資協定」というホームラン

第2章
世界で最も大衆に気を使う
中国共産党政府の統治テクニック
★「だったらオレは習近平がいいよ」
★~常に人民しか見ない究極のポピュリスト政権~
「何か」に怯え続ける中国共産党政権
「青春時代の終焉」と火がついた「中国の火薬庫」
よみがえる「維穏」があぶりだす共産党の“アキレス腱”
習近平も李克強も恐れる「選挙の洗礼」
ラジコン飛行機購入にも求められる身分証
「自由」を奪われた不満の矛先はどこへ向かったのか
タクシー運転手が語った「いや、習近平ならいいんだよ」の意味
「中国のエライ奴らは、みんな同じことをやっている」
不可欠な条件としての「大衆路線」
耳あたりのいいスローガンと“有言実行力”

★「党や人民に申し訳ない」
★~毎日700人以上が処分される政治ショーの正体~
スケールが違う「ハエ」たちの蓄財術
地方官僚と「トラ」に対する息つくヒマなき処分劇
社会の安定に大いに役立った「巨星」たちの落下
ますます巧妙になっていく「下の対策」
賄賂も酒も受け取らないが、仕事もしない
加害者も被害者もエリートという怪事件
24年分の昇格が一瞬でフイになる「断崖式降級」

第3章
基盤の脆さと個の強さが混在する
中国のジェットコースター経済
★「十字架はわれわれが背負うしかない」
★~労働者の不安というマグマと並存する爆発的な消費欲~
単なる“老化”か、それとも“致命傷”か
社会に吐き出される600万人もの失業者の行方
裁員、失業、下崗から転崗分流というまやかし
大企業幹部ですら不満と不安を呪う毎日……
浮かれ続けた「黒金10年」という石炭パラダイス
大きすぎて潰せない“東北最大のゾンビ”の惨状
鉄鋼業界発の大規模金融危機という悪夢
“悪が悪を追い落とす”石油業界の閉塞感
バブル崩壊後の日本を苦しめた「3つの過剰」と中国経済
『君の名は。』の大ヒットとアリババの24時間売り上げ記録

★「党員及び党幹部は緊迫感を感じるべきだ」
★~2012年、中国に訪れた本当の危機とその後遺症~
中国社会の根底を支え続ける妙な“明るさ”
転んでもタダでは起きない労働者たちの“耐久力”
「湿ったマッチ」には簡単に火はつかない
中国人がどんなときも失わない「サバイバルの鉄則」
中国の「水戸黄門」と化した北京の党中央
文化大革命の肯定と“中国崩壊”というリアルな危機
薄熙来が中国政界に残した火種の本質
中国共産党が文化大革命を“暗黒”と見なす真の理由
国家の「ちゃぶ台返し」という、いまそこにある危機
時代の変化に無節操なほど対応するリーダーたち
「亡党亡国」を防ぐ「ソ連崩壊」と「アラブの春」という教訓

第4章
私たちが見て見ぬふりをし続けた
中国という“不都合な真実”
★「大きな爆発が各地で起こるだろう」
★~ふたつの改革から見える新時代の始まり~
想像を超えた反腐敗キャンペーンのインパクト
“うつけ”を演じきった習近平と党中央の危機感
対立点も目的も説明しない呆れた“派閥抗争ネタ”
習近平体制のポイントとなる4つの「妙」
「毛・鄧」両路線を象徴する「楓橋経験」と「南巡講和」
なぜ習近平の次に顔を見せるのが王滬寧なのか
人事こそ「集団指導体制」から「核心」への変化のカギ
伏魔殿にも果敢に斬り込む「嫌われる勇気」
正月気分をぶち壊す旗艦企業へのがさ入れ
党・軍関係の改善こそが「機能する軍」への近道
対内的に“大敗北”を喫した人民解放軍

★「人民を豊かにし格差と腐敗を抑える」
★~権力闘争観では見えない知られざる中国の戦略と変化~
改革の起点は2013年11月にできた「小組」
国務院“中抜き”は決して権力闘争の結果にあらず
「習VS李」という日本のメディアの妄想バトルの実態
「ふたつの責任」「ふたつの主体」「ふたつの全面カバー」
私たちが見たくない現実にこそ未来がある

おわりに
もうそろそろ「神風の期待」から卒業すべき

以上

 

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